私は、故郷が慕わしく、夢の中でも故郷を訪ねていく人です。私の故郷は、ソウルを通り越して、あの遠い山と海のある北朝鮮の地、定州です。私の心は、いつどこにいても、愛と命があるその場所と結ばれています。私たちは皆、父母の血統を受け継いで生まれ、父母の愛を受けて育ったので、その愛がそのまま溶け込んでいる故郷を忘れることができません。それで、年を取れば取るほどより故郷が慕わしくなるのです。そこから出発したので、そこに帰らなければなりません。人は根本を離れることはできません。2004年、私はアメリカでの34年間の活動を終え、天運が共にある朝鮮半島に帰ってきました。
私たちは、朝が昼に変わる時間を知ることができません。また、夕方がいつ夜に越えていくのかも知ることができません。どの瞬間に過ぎていってしまうのか、天のなさることを人は分かりません。私たちの人生もそうです。成功と失敗の瞬間は、すべて私たちの知らないうちに過ぎていってしまいます。国も同じです。一つの国の吉凶がいつ訪れてくるのか知ることができません。このように人間は、天運がどのように動くのか知ることができないのです。天運とは、世界を動かす力であり、宇宙が回って行く原理です。私は知ることができなくても、世の中を創造された方が摂理する天運というものが明らかにあります。
宇宙は宇宙なりの秩序にきちんと合うように動きます。この世の中のあらゆる存在物は、存在する以前からある原則を持っています。赤ん坊がこの世に生まれれば、誰が教えなくても、目を開けて呼吸をします。無理矢理そのようにさせるのではなく、おのずとそのようになるのです。「おのずとなること」が宇宙の秘密を解く重要な鍵です。
自然には、おのずとなるものがとてもたくさんあります。しかし、実際には「おのずと」という言葉は合いません。おのずとなるように見える自然現象の中にも、私たちが知ることができない宇宙の方向性があるのです。宇宙の運、天運とはそのようなものです。宇宙のことが前もって分からないだけで、宇宙が循環する過程で大きな運が到来する時期が明らかにあります。寒い冬が過ぎれば春が来て、春が去れば夏が来る宇宙の原理を知れば、私たちの国に到来する未来もあらかじめ見通すことができるのです。
知恵深い人は宇宙の法度に拍子を合わせます。歴史に末永く残る人たちは、すべて宇宙の法度に拍子を合わせた人たちです。アメリカにいた時、家の前にハドソン川でたくさん釣りをしました。私は幼い頃から魚を捕まえるのが得意でした。時として、一匹のオイカワも釣ることができずに落胆して帰ってくることがあります。私たちはよく分かりませんが、魚にも通る時と道があります。水があるからといって、いつでも魚が通っていくのではありません。それを知らずに、夜も昼も釣り竿を垂らして待ってみても、無駄骨です。天運も同じです。未来を見る目がなければ、天運が自分の目の前に来ていても、見ることができません。それで、天運を見ることのできる慧眼が必要なのです。
世界文明の方向は、絶えず西進しながら発達してきました。すなわち、エジプトの大陸文明とギリシャ・ローマの半島文明を経てイギリスの島嶼文明が発達し、再びアメリカの大陸文明に移っていきました。文明は継続して西進し、太平洋を渡って日本に行きました。しかし、人類文明の移動はここで止まりません。日本を大きく育てた力が、今や朝鮮半島に移ってきているのです。人類の文明が朝鮮半島で結実する準備をしています。
日本の島嶼文明が大陸と連結しようとすれば、必ず半島を経由しなければなりません。もちろん、アジアにはインドシナ半島もあり、マレー半島もありますが、それらの国々は、現代文明を受け継ぐだけの背景を持ち合わせていません。ひとえに朝鮮半島だけがその役割を果たすことができるのです。朝鮮半島は、地政学的にまさに微妙な位置にあります。太平洋の海を挟んでアメリカと日本に対しているかと思えば、アジアとヨーロッパ大陸とも連なり、中国、ロシアと国境で向き合っています。そのため、昔から強大国の勢力争いの要地となり、多くの犠牲を払ってきました。
冷戦時代には共産主義と命がけの戦争を行い、今も朝鮮半島は依然として世界の強国の関心と利害関係が絡み合い、分断国となったまま、完全な平和を成し遂げることができずにいます。世界四大強国の利害関係が衝突する接点にある朝鮮半島は今、強大国の衝突を防ぎながら、世界の繁栄と平和のための協力を導き出す重大な役割を担当する時期になりました。
天運には必ず重大な責任が伴います。今や天運を迎えた朝鮮半島は、これらの国々が衝突せず、世界の繁栄と平和のために緊密に協力するよう、ベアリングのような役割をしなければなりません。ベアリングは、回転する機械の軸を一定の位置に固定しながら、同時に軸を自由に回転させる役割をします。これから朝鮮半島は、まさに強大国との関係を円滑に維持しながら、世界平和を発展させるベアリングになるべき時です。
その役割のために、私は以前から徹底した準備をしてきました。ゴルバチョフ大統領の改革政策を支持しながらソ連との関係改善を促進させ、鄧小平の中国改革開放政策を1980年代後半から積極的に援助しました。延辺大学の工学部設立を後援することをはじめとして、中国の地に足を踏み入れた後、天安門事件によって中国に投資しようとしていた外国資本が続々と中国を離れていく時にも、私たちは中国に残り、広東省の恵州に数億ドルを投資して、中国の改革開放のために多くの努力をしました。
単に経済的な理由でしたことではありません。私は事業家ではなく宗教家です。宗教家は、行く末を見通し、未来に準備する人です。ロシアと中国、日本、そしてアメリカまで、朝鮮半島を通して互いに協力し、発展していかなければなりません。朝鮮半島が世界平和の軸にならなければならないのです。
ところが、いざロシアと中国との関係改善のために働いてみると、最も基本的なロシア語辞典と中国語辞典さえないという事実を知りました。お互いの言葉も分からないで何かを一緒にできるでしょうか。その時、行く末を見通した志のある教授たちが、中韓辞典と露韓辞典の発刊のために努力しているというい知らせを聞きました。それは高麗大学の民族文化研究所の洪一植教授が推進していた中韓大辞典プロジェクトと、ロシア語学科の教授たちが準備していた露韓辞典発刊事業でした。私はこの二つの辞典の編纂を支援しました。これらの辞典は、今も韓中交流と韓露関係において大切な役割を果たしています。
いくら高い山の頂上に置かれた石だとしても、落ちるときは谷底に落ちていきます。西洋文明の最後がまさにそれです。科学の力を借りて目覚ましい発展を遂げましたが、精神的な没落によって、すでに谷底に向かって落ちていっています。その谷底がまさに数千年間精神文化を築き上げてきた東洋です。
その中でも、朝鮮半島は東洋と西洋の文明が出会う場所であり、大陸文明と海洋文明が出会う所です。歴史学者のシュペングラーは、一年に春夏秋冬があるように、文明もまた興亡盛衰を繰り返してきたと言いました。今は、これまで栄えてきた大西洋文明時代が過ぎていき、新しく環太平洋文明の時代が開く時です。環太平洋文化圏の中心はアジアです。韓国を中心とするアジアが新しい歴史の主人公になります。全世界人類の三分の二がアジアに暮らしています。世界のあらゆる宗教の起源もアジアです。アジアは長い間、人類の精神的な根源でした。
西洋文明と東洋文明は、近い将来に朝鮮半島で一つになるでしょう。世の中は今も急速に変わっています。天運も、ますます早く私たちに向かって近づいています。世の中が完全にひっくり返る変化の時期に、朝鮮半島が世界を導く重大な役割をきちんと果たすためには、万全の準備をしなければなりません。偏見と利己心に染まった過去を捨て、澄んだ目と新しい心で、訪れてくる時代を迎えなければなりません。
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